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20111023

三好リョウとガガガSP

【カテゴリ:日常】

ガガガSP(スペシャル)というバンドをご存じだろうか?
「卒業」という名曲で、ゼロ年代初頭のパンクバンドブームのトップを走っていたバンドだ。STANCE PUNKS、サンボマスター、GOING STEADYと、この頃登場した素晴らしいバンドは数多い。
そのガガガSPのライブを、僕は大学生の頃に観に行ったことがある。札幌の某大学で行われた学祭ライブで、175R(ライダー)というバンドと、当時としては豪華な2マンライブがあり、僕は三好という友人と二人でそのライブを観に行ったのだった。
三好は僕が大学の下宿先で知り合ったイッコ下の後輩で、音楽の嗜好性が似ていたのですぐに仲良くなった。よく二人で音楽話をしたり、ふざけて曲を作っては、札幌の大通公園や狸小路、すすきのニッカ下あたりで路上ライブをしていた。
ガガガSPというバンドは、もともとこの三好が好きなバンドだった。三好はこの「卒業」という曲をよくギターで弾き語りしていたのだ。ぼくも三好の歌う「卒業」を聴くのが好きだった。
ある日、三好が札幌のカウンターアクションというライブハウスにガガガSPのライブを見に行ったことがあった。彼は、そのライブにとても感激したらしく、翌日、僕に熱っぽくライブの様子を語ってくれた。そして、彼はこう言ったのだった。
「僕もいつか、あの人たちと一緒に同じステージに立ってみたい」
いいじゃないか、と僕は言ったと思う。立とうよ、と。
その後、しばらく時間は流れ、僕は大学をやめ地元に戻り、彼は札幌で本格的なミュージシャン活動に入った。
ミュージシャンというのは、これは一言で言っても、恐ろしく幅広い層の人がいるわけで、例えば、オリコンだ、武道館だ、というようなメジャーなミュージシャンというのは、その中でもごく一握りの人たちになる。ほとんどのミュージシャンは音楽系の学校に進むなり、都市に出てライブハウスに出演することからミュージシャン活動を始める。特にロックミュージシャンというのは、ほとんどが後者のパターンであろう。ライブを積み重ね、のし上がっていくというパターンが多い。しかしその際、まずライブに来てくれるお客さんを集めるのが大変なのだ。
出演するライブハウスには、出演料を払わなければいけない。これはおかしな話なのだが、ライブハウスというのは、ライブに出演する側が出演料を払って、ライブを行うのである。その時、ライブハウスからは出演料分のチケットがあてがわれる。これをチケットノルマと言い、30枚なら30枚、このチケットを売り切れば、初めてそこでトントンになり、31枚以上売った時、ここからがそのミュージシャンの儲け分になる。そこでミュージシャンは必死になって、このチケットを捌こうとするのだが、いかんせん無名なら、誰もチケットなど買ってはくれない。こうして、ミュージシャンは食えないということになり、ほとんどのミュージシャンはバイトに生活を追われ、結局はライブハウスを食わせるだけにせこせこ働くようになり、夢ついえていく。
要するに厳しい世界だと言いたい。
三好もやはり、そんな逆風の中を生きていただろう。仕事とバンドの両立での懊悩は、今まで幾度か電話で聞いた。そもそも、そういうミュージシャン希望というものに対して、世間の風は冷たいものだ。ミュージシャンという職業は、有名になれば世間から尊敬もされ憧れもされるのだけど、無名だと歯牙にもかけられない。親からは「いい加減就職しろ」と言われ、社会に出た友人からは「まだやってんの?へえ」ぐらいなリアクションを受けるのがオチである。厳しい、厳しすぎる。
そんな中で、三好が抱えていた苦悩というのは、はっきり言って想像に余りあるものではなかったろうか。わかったと言えば、嘘だろう。日々の切羽詰まった感情というのは、当事者にしか分からないものだ。けれども、僕はずっと変わらず三好というミュージシャンのファンであったし、彼が口にした「あの人たちと同じステージでライブをしてみたい」という彼の衝動のような目標を忘れたことはない。
そして先日、10月18日のこと、ついに三好はガガガSPのボーカルであるコザック前田氏と同じステージに立ち、ライブを行ったのである。それもあのカウンターアクションで。
三好がそれを口にしてから、実に10年越しの目標達成であった。世間は誰かこの偉業に気づいただろうか。彼の10年越しの夢に、誰か気づいただろうか。僕は感動のあまり、周りを見回すのである。おい、誰か、この偉業に気づいたものはいないか、と世間に問うのである。けれど、答えはひっそりしたものだ。努力というのは、なんと内向的なものだろうか。この偉業に気づいたのは、僕を含む彼の身近なファンだけであったか。
三好は言った。
「今度はバンドで共演したいです」
目標は、一つを達成すれば、その先にまた新たな目標がある。
淡々と迎えた彼のめでたき日に、僕は一人、部屋で静かに熱っぽい快哉を叫んでいるのである。三好、おめでとう、と。


三好リョウ
〈左からコザック前田氏(ガガガSP)、三好リョウ、モリタ氏(セックスマシーン)、メガマサヒデ氏〉

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