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20110118

阿呆の借金

【カテゴリ:阿呆】

漫画やドラマで時々、金に困った登場人物が警察官や刑事にお金を借りる、という話がある。取り調べ室でカツ丼ほど定番ではないが、金に困った登場人物に警官がお金を貸してあげるという設定の話。
あれって本当にお金を貸してくれるのだろうか?
まさか警察にそのための予算がおりているわけもないだろうから、警官個人の温情で、「これでクニに帰れ」なんつって貸してくれるのであって、まさか警察という組織が貸してくれるわけではないだろう。
取調室でカツ丼というのは飽くまでイメージであって、実際は出てこないらしいが、警察で金貸しは本当なんだろうか?どうしてもお金に困った時、警察に行ったら貸してくれる人はいるのだろうか?

と思い、ここにいる一人のミスター阿呆、実際にそれを試したことがある。

自分は、かつて青森県にて金に困り、交番に「すいません、お金を貸してください」と突撃したことがあるのだ。
もちろん、悪ふざけではない。あれは19の冬だったと思う。当時北海道に住んでいた自分は、青森までザ・ハイロウズというバンドのライブを見に出掛けていた。
そのライブも見終わり、さあ北海道に帰ろうと、青森空港から日に2本しか出ていない新千歳行きのチケットを買おうとした時のことであった。

異変に気付いたのは、青森駅から空港に向かう直行のバスに乗ってからのこと。財布の中にお金が残っていないことに気づいたのだ。土産なんかの買い物で、いつの間にか消費してしまっていたらしい。
「しまった!駅のATMでお金をおろしておくんだった」と後悔しながらも、すでにバスは人気のない山道を走っている。
ここまで来たら仕方ない。「空港に着いてからATMでおろそう」と考えた自分は、とりあえず心を落ち着かせた。自分の口座は郵貯だったが、「空港だから郵貯のATMくらいあるだろう」という希望的観測を持っていたのだ。

ところが。

空港についた自分は一目散にATMを目指したのだが、これが・・無いのである。どれだけ探しても、空港の中に郵貯のATMが一つもない。自分は愕然とした。ジーザス。

慌てふためいた自分は、その場に座り込んで対処法を考え始めた。
青森駅に戻っておろしてこようか・・。しかし、それでは飛行機の出発時刻に間に合わなくなる。その便を逃したら今日一日、青森に宿泊決定の上、前割で取ったチケット予約が無効になって、翌日の飛行機代が倍額となる。そんな金の余裕などなかった。
しかもなんと、間の悪いことに翌日は大学の試験日であった。これを落とすと、進級に響いてくるという大事な単位。そんな大事なテストの前日に、青森にライブ観戦に来ているミスター阿呆、高沢里詞。だって、ハイロウズなんだもん。

近くにATMはないかと、空港の外に出てみたが、あたりに銀行もコンビニもありそうな気配はない。そういえば、バスもしばらく山道を走っていた。空港の駐車場からは、遠くの方にかすむように青森市街の景色が見えるばかりである。あそこまで、走れ・・・ないか・・。

がっくり肩を落とし、自分は途方に暮れてしまった。もう駄目なんだろうか、と諦めかけたその時である。

空港内にあった空港警察の交番が目にとまった。
もうこれっきゃない、と勇んだ自分は、そのまま走りこむようにして交番の扉を押した。
交番に足を踏み入れ、第一声に「あの、すいません、お金を貸していただけないでしょうか?」と頼み込んだのを今でも覚えている。空港の奥の一角にあって、中には制服を着た警官が3~4人待機していた。

当然のごとく、自分は緊張していた。緊張していたが、もう大丈夫だと思った。漫画やドラマの中で警官がお金を貸し渋ったことは無く、当然自分はお金を借りて、無事北海道に帰れるものと思っていたのである。全く、どこまで行ってもミスター阿呆。この時、すでに自分は漫画と現実の境目を失くしていたのかもしれない。頭の中は、借りたお金を返す算段に入っており、「ここの住所も聞いとかなきゃな」などと余計なことを考えていた。

「とりあえず、ここに住所と名前を書いて」

と警官に差しだされた用紙に「はい、はい」と答えながら、ちゃかちゃか書きこんでいく自分。もうすでにそれが借用書に見えている。実際は、ただの尋問なのに。だが、そんなことに気づく心の余裕さえ失っていた。

「身分証を見せて」
「事情を聞かせて」
「青森へは何をしに来たの?」

言われるがままに、質問に応答する自分。その質問項目が一つ一つ多くなっていくごとに自分の中の安堵も募る。
「警察官も、きっと自分が金を貸すに見合う人物かどうかを査定しているのだろう。これだけ、手をかけてくれているのだ。貸してくれるに決まっている」
と、警察をサラ金と勘違いしているミスター阿呆。阿呆が止まらない。

ところが。

尋問を終え「それで、いくら必要なの?」と問うてくる警官に、「2万円もあれば・・」と顔を引き締めて答えた自分。それに対して警官は。

「2万円ねえ・・。悪いけど、ここでは貸せないんだよね」

と、衝撃のお言葉。
「え?」と言ったきり、シーンとなる。すっかり安心しきっていた自分の脳裏に、再度、大学を落第している様子と、金がなくて宿に泊まれず極寒の駅のベンチで寝ている己の姿が脳裏をよぎり、アワワワワ・・という状態。
まあ、よく考えてみれば当たり前である。先に言ったように、警察では人に金を貸すための予算など計上していないだろう。
しかし、自分としてはそれで引き下がるわけにはいかない。こちとら人生がかかっているのである。青森空港で見つけた最後の光が交番だったのだ。自分は猛烈な勢いで頼み込んだ。

「でしたら、でしたら、あなた個人で私にお金を貸してはもらえないでしょうかっ!!」

答えは空しかった。

「いやあ、私はちょっと。おーい、誰か、この子に金を貸してやれんか?2万円だと」

その場にいた他の警察官の誰もが苦笑いで、各々の机から離れようとしなかった。
立ちっぱなしのまま出ていこうとしない自分を見かね、そのうちの一人が、受付までやってきて「空港のカウンターに連絡しておくから、行って聞いてみなさい」と案内してくれた。
顔と声は優しかったが、自分の暗く沈んだ心のせいか、なんだか体よく断られたような気がして、その瞬間、自分は予期していた不安の全てを覚悟したのだった。

全てはライブに来た自分が悪かったのである。もう、頭の中にはハイロウズのライブなんて、ハの字も残っちゃいなかった。つい4~5時間前まで「ゴー!ハイロウズ、ゴー!」なんつって、ステージ上の彼らに向かって「ヒロトぉぉぉぉ!マぁぁぁシぃぃぃぃぃ!!」と叫ぶなど、絶好調でノリノリだった自分が、すっかり弾けて無くなってしまっていた。急に青森の寒さが身に沁みてきた。

シュンとして、とぼとぼ空港のカウンターに向かう自分。もう諦めてはいたけれど、最後の望みに警察で言われた通り、カウンターで聞いてみることにしたのだ。
しかし、一体何を聞けばいいんだろう?「タダで乗れますか?」そんなバカな。
困窮した自分は、連絡を受けて待機していたカウンターのお姉さんに、こんなことを口走っていた。

「あの・・飛行機代金を後払いにして頂けないでしょうか?」

ノー。それはノーである。どこぞのVIPだというのだ。貴様みたいな前割搭乗の小市民がツケなどきくかっ一昨日きやがれ糞野郎、と言われても仕方ない場面。いや、むしろ自分としては、はっきりそう言ってほしかった。
「すいません、それは出来ないんですぅ」と苦笑いで言われるより、数倍も楽だった。

ところが。

お姉さんは意外にも、そんな自分を軽くあしらわず、親身になって事情を聞いてくれたのである。
その中で、自分の口から「現金は持っていないけど、郵貯のカードの中にお金が入っているんです」という一言を聞きだすと、お姉さんは「ちょっと待ってください」と奥に引っ込んでいった。
そして再度、奥から出てきたお姉さんはこう言ったのである。

「お客様、それでしたら郵貯のカードにはデビッドカードというシステムがありまして、ATMがなくても、ここでカードによるお支払いが可能です」

その時の自分の気持ちを何と例えたらよいのだろう。
そうだ、カンダタである。あれはまるで、地獄にあえぐカンダタの前に、仏様から差し出された蜘蛛の糸のごときであった。
ホント、お姉さんには感謝である。このブログを見てるはずもないだろうが、あの時はありがとう、お姉さん。自分はお姉さんの名前も知らないが、こうやっていつまでも青森空港のカウンターで、こんな糞みたいな自分にデビッドシステムを教えてくれたあなたの接客能力を語りつづけるよ。ありがとう。ほんとにありがとう。

その後、さっきの交番に戻って「大丈夫でした。無事、帰れます」と自分は挨拶をした。警察官の方々は皆、なんだかんだ言いながら心配してくれていたのだろう。「よかったねえ」と笑顔で言ってくれたのだった。
「ご迷惑をおかけしました」と言って、交番の扉を押し、その場を後にする自分。今考えれば、なんか刑務所を出所する服役囚のようだったな。「ありがとうございました。お世話になりました」なんつって。

そうして無事、自分は北海道へと戻ってきたわけだが、まあ、そんなわけで結果を言ってしまえば、警察に行ったからといってお金は貸してもらえない。
ただ、今になって思うのは、世の中ってやはり「渡る世間に鬼はなし」なんだろうなということだ。どんなに情けない姿になっても、どこかで必ず助けてくれる人はいる。
今でも時々思い起こすけど、本当のことを言えば、もしかしたら最後の最後、本気でどうしようもない時は、あの警察官も、それからカウンターのお姉さんでも、きっとお金を貸してくれたんじゃないかと思うのだ。
お金だけじゃない。駅のベンチで寝ることになっていたら駅員が毛布を貸してくれたかもしれないし、大学の教授は僕のために追試を用意してくれたかもしれない。
実は、誰にとっても世の中ってそういう風に回っているんじゃないだろうか。根拠はないが、世の中ってそういうものなんだと思う。
しかしまあ、このこと以外にも自分は似たような失敗が多くって、大勢の方に助けられてきたから、どこかできちんとその分の恩返しをしていかねばならない。ミスター阿呆だからなあ。人一倍返さなければならない恩が、たくさんある。

苦しそうな石像


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