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20110331

桜と帰省と計画停電

【カテゴリ:日常】

3月が終わろうとしている。
2階の廊下の窓を開けると、手が届きそうな位置に桜の木がある。隣家の庭に生えているもので、枝にはたくさんの蕾がついている。
桜は、その前年から当年にかけての冬が寒ければ寒いほど、盛大に咲くと言われている。今年は厳冬であったから、きっとたくさんの花を咲かせるだろう。力を蓄えているのか、去年よりもだいぶ開花が遅いように思われる。
今月上旬は、桜の開花を心待ちにしていた。性質がのん兵衛なものだから、花見の季節は頭の中に酒と桜が陰陽図のように絡み合っている。だから“桜が咲く”それだけのことでこの季節は心がウキウキしてくるのだが、今はその蕾もどこか空しい。

先日、埼玉の実家に帰省した。東京で行われる姉の結婚式に出席するためで、地震の影響により開催できるのか不安だったが、式場関係者、参列者皆々さまのおかげで無事、終えることが出来た。南麻布にある個人宅を改装した小さな会場で、品の良さを感じさせる庭園と石造りの建物は、ビル街に挟まれながらも凛としてそこにあった。
計画停電のことは話に聞いていたが、思っていたよりも町はそれに馴染んでいた。誰も慌てる様子はないし、病院などでは大きなジェネレーターを設置して予備電源を用意している。
停電の間は、信号も消える。
国道の大きな交差点だけは、警察官が交通整理をしているが、県道市道に入ってしまえば自分たちで確認し譲り合いながら通行するしかない。青信号ならば、左右を確認することなく走り抜ける道路でも、信号がついていないと一々停止して確認しなければいけない。けれど、思い返せばそれが基本的な車の運転だったような気がする。いつの間にか、信号に頼りすぎていた自分がいたのかもしれない。
帰省中に二度停電があったが、一度は夜の6時半からだった。薄暗がりの中で、町の電気が一斉に消えた。向かいの団地がどの部屋も息を潜めたようになり、街灯も消えてしまう。そんな中で、灯油ストーブと懐中電灯の明かりを頼りに、カセットコンロで煮込んだうどんを家族と一緒に食べた。
うっすらと月明かりが窓から差し込んでくる。カセットコンロの火が家族の顔を照らしている。僕は、その時間を美しいと思った。その光景がとても綺麗なものに見えた。いつもはうるさいテレビもないし、新聞を読む明かりもない。生活を便利に囲む様々な家具は使えないし、唸りを上げる冷蔵庫は沈黙している。そういった中で、一つの火を囲みながら家族で同じ鍋の中のうどんをつついている。それが自分には幸せだった。それ以外に必要なものなどないと思った。外を見ても見えるものは建物の外郭ばかり。空が群青色に輝いている。町の空気がどんどん清浄化されていっているような気がした。

関東の桜は、まだ蕾も付けておらず、当然気温も宮崎より低かった。街のいたる所で屋根瓦が崩れていた。崩れた箇所にブルーシートがかかっているので、すぐに分かる。塀が崩れた家も多かったらしく、自分は親父の仕事の手伝いで、壊れた塀の補修工事をしたりした。
墓参りのため菩提寺に行くと、石灯篭が横倒しになっている。お地蔵さんも倒れている。クレーンで直すつもりだったのだろうか、ロープに巻かれている。
近所のスーパーには天井に幾つか穴が空いていたけれど、営業していた。節電で、店内の電気は半分ほどしかついていない。
僕はふと、イカ釣り漁船の話を思い出した。
イカ釣り漁船は、イカ寄せのための電球を連ねて漁をするが、その明りは本来、電球一個で十分なのだそうだ。わずかな明かりでイカは集まってくるのだという。それでは何故あれだけ船を明るくするのかというと、他の船の明かりに負けないためにしていることらしい。皆が電球一個にすればそれでいいのだが、自分の船に一番イカが集まるよう、二個つける者がいる。そうすると、あとは競争になってしまうのだ。
スーパーも同じではないか。
半分ほどの電気でも、買い物をするには十分な明かりだ。けれど、明るい店の方がお客が集まってくる。自分も普段であったら、この薄暗い店を選ばずに他の店に行っていたかもしれない。まるで、スーパーが漁船、自分がイカのようではないか。

もしかしたら、町が復興すれば、また何もなかったようにそんなことを忘れ、僕は信号に頼って車を運転し、明るくガチャガチャとした部屋で食事をし、必要以上に明るいスーパーを選んで買い物してしまうのかもしれない。
覚えていよう。来年も、再来年も、3年後も5年後も10年後も。いつでも人に話せるくらい、忘れずにいよう。今、生活に限度が出てきたことで、何が必要か、何が不必要か、鮮明に見えてきた。のどを潤すため築き上げた文明に、自分は溺れかけていたのかもしれない。おごっていたのかもしれない。

被災地の方々に一刻も早く日常が戻ってくることを、願っています。また、いつものように誰が見ても楽しい桜が咲く春が来るように。みんなで酒を飲みながら笑い合えるように。それまで僕は、僕の日常をしっかり生きようと思います。

モノレールからの夕景


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