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20101024

阿呆の言語

【カテゴリ:阿呆】

人生、吠えたくなる時ってあるよね。
いや、今、外で小学生の集団が犬の鳴き真似をしていたものだから。ああ、僕も小学生の頃やった、って言いたくなって。
ワオーンて遠吠えは、あれ、結構手軽に本格的な鳴き真似が出来るから、やってるうちに「あれ、俺って上手いんじゃね?」という自惚れが出てくるんだよね。猫の鳴き真似も同じで、ニャアンニャアンやってると、自分で自分に酔ってハマってしまい、ずっと言い続けてることってあったな、昔。
今、大人になってそういう子供、例えば、ほら、さっきから外で犬の鳴き真似をしている子供たちを見てると、なんだか妙に恥ずかしくなったりもして。ああ、こんな風に人間は成長するのだなあと思い、空を見上げれば秋。皆さま、まっこと、ご機嫌うるわしゅうございます。

先日のことでございます。アルバイト先のスーパーで、レジスターという機械を使用しておりましたところ、一人のお年を召した女性のお客様がいらっしゃいまして、私にこう言ったのでございます。
「領収書をくださいね」
私もこのスーパーでレジスターを扱い始めて、かれこれ半年。かつては商品のバーコードを機械が読みこんでくれず、商品を読み取り機の前で何度も左右させる行為、通称「腹振り」を繰り返した私めでございましたが、最近は堂に入った、まで言えずとも、玄関ぐらいに立ったのではないかというレジスターの腕前。
快く承知いたしまして、商品を流し終え、お釣りとレシートを渡した時のことでございます。
近代のレジスターというものは真に便利でございまして、釦一つで領収書というものは出てまいります。昭和期のような手作業による金額の書き込みや「上様でよろしいですか?」という煩わしいやり取りなどはございません。我々は、ただ、機械から出てきたものに判を押すだけなのでございまして(もちろん判はシャチハタでございます)この時も私はそのようにして機械から領収書を発行し、女性にお渡ししました。
すると、どうしたことでしょう。女性は、私の手にある領収書を受け取ろうとせず、しげしげとそれをお眺めになり、ぽつりと呟くではありませんか。
「なんですか、これは?」
予想だにしていなかった、お客様のRE:アクションに私も少なからずドギマギいたしまして、私は私なりに「何か落ち度があったのだろうか・・」と思案したのでございますが、一向にお客様の意図が掴めません。そこで私は、お客様にこう問うてみたのでございます。
「お客さん、領収書をくださいって言ったんじゃなかったんですか?」
もしかしたら私の聞き間違いかもしれない、そう思ったのでございます。
ところが、どうもこれも的を得ていないようでございました。お客様は、私の顔を見上げ、不思議そうな顔をなさりました。そして、こう尋ねられたのです。
「最近は、こんなのが出るのかね?」
ますますもって意味がわかりません。
これには私も参りまして――というのは次のお客様がレジスターの前で腕組みをして待っていらっしゃいます――「ええ、出ますよ」と返事をし、そのまま領収書を渡して押し切ろうと致しました。
ところが、お客様はこれを一旦は受け取ったのでしたが、やはり納得されない御様子でしたので、そうなると私としても納得できません。
「一体全体、貴女のお望みは何ですか?」と口に出して聞けるものなら、いっそ聞きたいくらいでありましたが、私は努めて柔らかく「どうしました?」と聞いてみました。
そうしたところ、お客様は、
「いや、私は領収書をくださいって言ったの。これでいいのよ」
とお答えになるではありませんか。そうして、右手に握っていた釣銭とレシートから、左手でレシートだけを抜き出し、私に見せたのでございます。
私は、ショックでございました。
野暮な説明を付け加えさせて頂けば、お客様がお求めになった領収書とは、つまりレシートのことだったのでございます。私は端から領収書とは件の領収書だと思い込んでおりましたので、はっきり申せば、この場合、言葉が通じていなかったのは私、勘違いをしていたのは私、ということになりましょうか。それが私にはショックだったのでございます。
「それならば何故、レシートをくれと言ってくれなかったんだ。というか、レシートだったら言われなくても渡してる」
という思いがなかったわけではございません。
しかし、のちほど辞書にて調べてみましたらば、レシートの項にはしっかりと「領収書。」と出ているのでございまして、あのお客様のおっしゃっていたことに間違いはなく、私は苦悩したのでありました。
――では、神よ。領収書とレシートという言葉の使い分けを、今後、私はどのようにしていけばよいのか、お答えくだされ。主よ、光を――
そうして、私は自信を失い、今日を彷徨い歩いているところなのでございます。さる著名な方がおっしゃっておられました。
「言葉が私たちをつくっている、人間とは言葉によってつくられているのだ」
その根幹を揺るがす事件だったのでございます。これは、すぐさまに言語の統一化を図るべきだ、と私は案じました。日本をバベルの塔にしてはいけない。私は立ち上がる決心をいたしました。
その行動の一環として、この度私は、かような文体でこれを記しているのでありまして、どういうことかというと、これは、美しい日本語を使おうという原点回帰の心。
そういう高貴な理由である故、もしかしたら読者の方々の中には「文章が見持ち悪くて読みにくい」というような傍若無人なご意見があるかもしれませぬが――よもや、あるとは思いませぬが――お控え願いたく思っているのであります。
私は日々に切磋琢磨し、これを修練の上獲得していく身上なのでございます。冒頭の駄文は気まぐれにつき平にご容赦願いたい。ぐ、愚愚愚。

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