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10日に自分が勤めているスーパーの新年会があって出席してきた。小さな町のスーパーながらも、隣町にもう一店舗構えるチェーン店で、50名ほどの人が参加した。
宮崎での生活は、特に知人がいるわけでもなく、お世話になっている先生の家族を除けば、自分の付き合いはこのスーパーの従業員くらいだ。
会費の3千円を払って、席番のくじを引き、決められた番号の席に座る。隣も向かいもパートや社員のおばちゃんで「ようこそ、いらっしゃい」と言われたので、「どうも、よろしくお願いします」と笑って、腰かけた。
乾杯の後、去年、色々と迷惑をかけた本部長にお酌して「年末はどうもありがとうございました」とお礼を言い、席に戻るとゲームの時間。全員でプリッツゲームという名の余興に興じた。
このゲームは、口に咥えたプリッツの先に輪ゴムをかけ、手を使わずに輪ゴムを隣の人のプリッツに引っ掛けて渡していき、輪ゴムが一番早く最後尾に行ったグループが勝ちというルール。
顔面が間近で向かい合う、なかなかにスリリングなゲームなのだが、隣のおばちゃんに鼻息をかけられながら受け取った輪ゴムを隣りのおばちゃんに鼻息をかけながら渡していくという展開で、結果、自分のチームは最下位だった。
お次は、「長っ!ストローゲーム」と名付けられたゲーム。これは何かと思っていたら、10メートルほどの長さの塩ビ製チューブ(ストロー?)でコップの中のオレンジジュースを早く飲みきった人が勝ちという単純明快なルール。
「グループの代表者が一人づつ出て戦ってください」とのことで、自分は左右正面のおばちゃんに「若いんだから出てきなさい」と推薦され、出場。
対戦相手は隣町の店舗に勤めている女の子で、よーいドン、という声がかかってスタート。のはずが、その直前に物言いがあり、すわ、何事かと思ったら司会進行の女性が「すいません、高沢君は男性なのでハンデをつけます。いいですか?」と言う。
まあ、男性と女性では肺活量が違うのだから、ごもっともな意見だろう。
「いいですよ」と答えた自分に「それでは」と用意されたのは、ジュースではなくメロンソーダであった。よし、では気を取り直してスタートかと思ったら、司会はまだハンデがあると思ったのか、「まず先に女の子をスタートさせ、10秒数えるので、高沢さんはそれからスタートしてください」と言う。
それはいくらなんでもハンデがきついんじゃないかと思いつつ、「分かりました」と答える自分。
で、よーい、スタート。
自分はホースのようなストローの先を手に持ったまま、隣でシュルルルルと吸い上げられていくオレンジジュースを見つめていた。
5秒ほど過ぎたところで、司会の女性が「あっ!早い!やばい!」と言い出す。対戦相手の女の子が予想外に早いスピードでジュースを吸い上げているらしく、「もう無くなっちゃう」と司会が叫んでいるのである。
「ほら、言わんこっちゃない」と思いつつ、これは自分は戦わずにして負けるのか、不戦敗ってやつか、とぼんやり思い始めたところに「はい10秒、スタート!」と言う声が会場に響き渡った。
「がんばれー高沢ー!」という自店の店長の声援を受け、奇跡の逆転勝利を目指し、一気に吸い上げる。
ところがいかんせんメロンソーダ。吸い始めた途端に、ストローの中は炭酸の気泡で一杯になり、いくら吸っても「ズズズ・・ズ・・ズ」と泡ばかりで、自分の口の中には液体が流れ込んでこない。
司会もよもやそのような事態は予測していなかったのだろう、「あっあっ」と言っているうちに、相手のオレンジジュースがなくなったらしく、勝負あり。
自分は何をしているのかよく分からないまま、とりあえずこのストローは来年も使うんだろうと思い、チューブ内に残っていた気泡を吸い上げて、席に戻りながらくるくると丸めて回収した。で、司会に渡した。一応、負けた方にも賞品があるらしく、司会が「どうぞ」とトイレットペーパーを持ってきてくれたので、受け取る。
本部長からの挨拶があり、「去年1年、皆さん、どうもありがとうございました。今年もよろしくお願いします」と話せば、会場からはパチパチパチと拍手が起こり、「それでは、みなさんカラオケタイムです」と司会が会を進行していく。
自分は久しぶりにビールをしこたま飲んで、けっこういい気分。一人で悦に入っている。何名かの若者が前に出て歌を歌っているが、あれは何を歌っていたのだろう。今となってはもう思い出せない。
去年もこんな感じの新年会であった。1年なんて早いもんだ。
おきまりの言葉で独りごちながら酒を飲んでいると、司会が声をかけてきた。
「高沢さん、何か1曲歌って盛り上げてください」
独りで酔っ払っている男に向かって、随分と無茶苦茶な問題を突き付けたもんだ。
しかし、それに呼応して、左右正面のおばちゃんが「そうそう、若いんだから歌いなさい」と追い打ちをかける。
若いんだからもくそもないが、「ならば、盛り上げてやる」と息巻き、「わかりました」と答えた自分は静かに立ち上がり、ステージへと向かった。
皆の前に出て、カラオケのリモコンを受け取り、迷わずに選曲する。
画面に現れたタイトルは、我が愛するRCサクセションのヒットナンバー「キモちE」。
「気持ち、EEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!」
セリフからの導入でイントロ。
ガヤガヤとしていた室内が一気にシンとなり、次の瞬間「うわあああっ!!!」と50人が一つの大きなうねりとなって、爆発する。声援が飛ぶ。拍手が飛ぶ。涙をぼろぼろ流して、笑っているおばちゃんがいる。しっかりと場を盛り上げたぜ。ベイベー。
EEE気持ちいい/EEE気持ちいい/そうさおいらは一番気持ちいい/誰よりも気持ちいい/どこまでも気持ちいい/布団で寝ているやつより/女と寝ているやつより/新聞読んでるやつより/音頭を取ってるやつより/サイコーサイコーサイコーサイコーサイコーサイコーサイコーサイコーサイコーサイコーサイコー
翌日、新年会に出席していなかったレジのおばちゃんから声をかけられた。
「聞いたよ、高沢君!新年会でだいぶハジけたんだって?みんな、おとなしい人だと思っていたから、すごいギャップだったって驚いてたよ」
「そうですか。そんなことないんですけどね」
中学から今に至るまで、自分は何度もこのセリフを聞かされた。何故か皆、自分のことをおとなしい人だと思うらしい。たぶん、あまり喋らないからだろうけど。
そういえば、RCサクセションの忌野清志郎もテレビに出る時は、ステージと打って変わってシャイでおとなしい人だった。きっとロックンローラーはべシャリが苦手なのだ。