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ということで、長崎から帰ってきました。
一週間の出張でガソリンのタンクに足場をかけてきました。
ガソリンタンクというのは、よく海辺に円柱状のタンクが林立したプラントがありますが、石油やら重油やら軽油やらを貯蔵するやつですな、その中の一つです。大きさが直径20m弱くらいでしょうか、高さがビル5階分くらいの、そこそこ大きめなタンクです。
で、このプラントというのは油を扱うわけですから施設内のルールが厳しくて、例えば場内で携帯電話を持ち歩いてはいけないというルールがある。施設に入場する際に新規教育といって場内のルールなどを教わりますが、ガソリンは引火しやすく火気厳禁という大前提があります。しかし、ほんなら火気って何さ?と、火気を起こす原因として何があるかを聞いたりするのですが、ライターなどはもちろんで、ハンマーすらいけないんだという。ハンマーで鉄を叩けば火花が散る可能性がありますから、これは「火器」に当たるというのです。そんなわけで、仕事のできる時間に制限が多い現場でした。
ガソリンというと、ほとんどの人が車の運転などで使っていると思うのですが、あれって一体どこからやってくるのか?
現場で仕事をしていると、場内にひっきりなしでタンクローリー車がやってきて油を積んでいく。これは各々の配送ルートでガソリンスタンドに油を運んでいるのでしょう。では、そのプラントにはどうやって油が運ばれるのか。巨大なタンクにどうやって油を貯めていくのか。
というと、これは船が運んでくる。油のプラントが何故海辺にあるのかというと、岸につけた船からそのまま油をポンプでタンクに移すためです。船で運ばれてくる油はそもそも製油プラントで作られたもので、製油プラントには産油国からやはり船で運ばれてくる。
んで。
ガソリンというと、色々な販売店がありますね。コスモやらエネオスやら、昭和シェルやら。今回自分は初めて知ったのですが、あれって、それぞれ違うガソリンなのかと思っていたら、皆一緒のようなんですね。というのは、プラントにやってくるタンクローリー車はエネオスやらコスモやらバラバラなんですが、同じ油を積んでいくんです。それでは何故ガソリンの値段がスタンドによって微妙に違ったりするのかと言えば、それはスーパーによって同じ牛乳が違う値段のように、販売店の売値だけの問題のようです。というわけでガソリンは販売店で選ばず、値段で選んでいる方がお得かもしれません。どうせ同じモノならばね。それぞれ品質が違うのかと思っていました、僕は。(ちょっとネットで調べたら、ハイオクだけは販売店によって品質に差があるそうです)
そんなわけで船でしょっちゅう油が運ばれてきて、その油をタンクに入れる作業の度、足場の仕事が中断になる。タンクに油が入れば、その分、タンク内の空気の嵩は減っていきます。減った分の空気は外に逃がしてやらねばいかないから、タンクの上部には通気口が空いていて、ここから空気が逃げ出します。しかし、ガソリンは揮発しやすいですから、通気口から逃げ出した空気には多量の揮発したガソリンが含まれているわけです。これが空気中に流れてしまえばいいのですが、空気よりも重いため、当然タンク周辺の地上に溜まってしまう。この時、地上に火気があると引火、爆発を起こしてしまうため仕事が出来んのです。実際、現場周辺はガソリンの臭いがする。で、これが風などによって自然に流れるまで僕らは待機していました。
この足場の解体が来月らしく、また長崎に行くかもしれませんが、今度は大分県で吊り足場の仮設も始まるらしく、その仕事内容を知らない自分が「吊り足場ってなんですか?」と先輩に聞くと、なんだか地上30mにある高速道路の橋の下に足場を組むらしく、おそらく橋の下のコンクリートに亀裂が入っていないかなどチェックするのでしょう、そのための足場をチェーンで吊って作るらしい。最初は足がすくんで作業が出来ないそうなのだけど、「慣れれば大丈夫、慣れるまでが仕事みたいなもんだから、あ、それから下は民家だから絶対に物を落としてはいけないから」と話していました。命綱を2本使って移動しながら作業するらしい。落っこちたら即死、何か落っことして人の頭に当たっても即死、というような状況の中で仕事をします。
この仕事を始めてまだ5か月なんだけど、いやあ、世の中にはこんな仕事があったんだなと今でも思っている。何か大きな建造物を作る時、瀬戸大橋にしろ、青函トンネルにしろ、出来上がったものを見て「人ってすげーな、よくこんなものを作ったな」と簡単に思ってきた自分でしたが、いざそういう仕事をしてみると、到底人間業ではないような思いがしてきます。実際に大工事に災害はつきもので命を落とす人も少なくないですが、仕事にかける一人ひとりの執念というか、早く家に帰って家族の顔がみたいとか、安心して眠りたいとか、そんな、言ってしまえば普通の生活を一旦は忘れて仕事に没頭している、そんな職人さんたちを心から尊敬します。そういう気持ちの集まりが大きなもの、歴史的なもの、素晴らしいものを生んでいるんだなと痛感している30歳。一人プロジェクトXの気分なわけです。